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この物質的に何らの功能もない述作的労力の裡うちには彼の生命がある。彼の気魄きはくが滴々てきてきの墨汁ぼくじゅうと化して、一字一画に満腔まんこうの精神が飛動している。この断篇が読者の眼に映じた時、瞳裏とうりに一道の電流を呼び起して、全身の骨肉が刹那せつなに震ふるえかしと念じて、道也は筆を執とる。吾輩は道を載のす。道を遮さえぎるものは神といえども許さずと誓って紙に向う。誠は指頭しとうより迸ほとばしって、尖とがる毛穎もうえいの端たんに紙を焼く熱気あるがごとき心地にて句を綴つづる。白紙が人格と化して、淋漓りんりとして飛騰ひとうする文章があるとすれば道也の文章はまさにこれである。されども世は華族、紳商、博士、学士の世である。附属物が本体を踏み潰つぶす世である。道也の文章は出るたびに黙殺せられている。妻君は金にならぬ文章を道楽文章と云う。道楽文章を作るものを意気地いくじなしと云う。
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