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それからまた有用無害の狐狸がいたという話は、今では多く寺々の管轄の下に帰し、かつは仏徳の如是畜生にょぜちくしょうに及んだことを証しているようだが、最初はその全部が僧たちの親切に基づいた因縁話でもなかったらしい。今日の思想から判はんずれば、狐はこれ人民の敵で、人は汲々乎きゅうきゅうことしてその害を避くるに専もっぱらであるけれども、祭った時代にはいろいろの好意を示し、また必ずしも仏法の軌範の内に跼蹐きょくせきしていなかった。例えば越後の或る山村では、正月十五日の宵よいに山から大きな声を出して、年の吉凶を予言し、または住民の行為を批判した。『東備郡村誌』によれば、岡山市外の円城村に老狸あり、人に化けて民間に往来し、能よく人の言語を学んでしばしば附近の古城の話をした。その物語を聴きかんと欲する者、食を与えてこれを請こう時んば、一室を鎖とざしてその内に入り、諄々じゅんじゅんとして人のごとくに談じた。しこうして人を害することなし、尤もっとも怪獣なりとある。三河みかわの長篠ながしののおとら狐に至っては、近世その暴虐ことに甚だしく住民はことごとく切歯扼腕せっしやくわんしているのだが、人に憑つくときは必ず鳶巣城とびのすじょうの故事を談じ、なお進んでは山本勘助の智謀、川中島の合戦のごとき、今日の歴史家が或いは小幡勘兵衛の駄法螺だぼらだろうと考えている物語までを、事も細かに叙述するを常とした。単に人を悩ます者がおとらであり、おとらは歳とし久しき狐なることを証明するためならば、それほど力を入れずともよいのであった。おそらくはこれも昔はその話を聴くために、狐を招いてきてもらった名残であって、同時にまた諸国の狸和尚、ないしは常陸坊・八百比丘尼の徒が、或いは自分もまた多くの聴衆と同じく、憑いた生霊、憑いた神と同化してしまって、荘子そうじの夢の吾われか蝴蝶こちょうかを、差別しえない境遇にあった結果ではないかを考えしめる。
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