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抽斎がいかに劇を好んだかは、劇神仙の号を襲ついだというを以て、想見することが出来る。父允成ただしげがしばしば戯場ぎじょうに出入しゅつにゅうしたそうであるから、殆ど遺伝といっても好よかろう。然るに嘉永二年に将軍に謁見した時、要路の人が抽斎に忠告した。それは目見めみえ以上の身分になったからは、今より後のち市中の湯屋に往ゆくことと、芝居小屋に立ち入ることとは遠慮するが宜よろしいというのであった。渋江の家には浴室の設もうけがあったから、湯屋に往くことは禁ぜられても差支さしつかえがなかった。しかし観劇を停とどめられるのは、抽斎の苦痛とする所であった。抽斎は隠忍して姑しばらく忠告に従っていた。安政二年の地震の日に観劇したのは、足掛七年ぶりであったということである。
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