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山人が我々を目送したという話もおりおり聞く。そうして甚だ気味の悪いことに、これを解説するのが普通であった。気味の悪くないこともあるまいが、彼らは元来が真の有閑階級だから、じつははっきりとした趣意もなく、ただ眺めていた場合もあったかも知れぬ。ただし少年や女には、これを怖れる理由は十分にあった。前年前田雄三君から聴いた話は、越前丹生にう郡三方みかた村大字杉谷の、勝木袖五郎という近ごろまで達者でいた老人、今から五十余年前に十二三歳で、秋の末に枯木を取りに村の山へ往った。友だちの中に意地の悪い者があって、うそをついて皆は他の林へ往ってしまい、自分一人だけ村の白山神社の片脇の、堂ヶ谷というところで木を拾っているとき、ふと見れば目の前のカナギ(くぬぎ)の樹にもたれて、大男の毛ずねがぬくと見えた。見上げると目の届かぬほどに背が高い。怖ろしいからすぐに引返して、それからほど近い自分の家に戻り、背戸口に立って再び振り返って見ると、その大男はなおもとの場所に立ち、凄すごい眼をしてじっと此方を見ていたので、その時になって正気を失ってしまったそうである。この堂ヶ谷は宮からも人家からも、至って近い低い山であった。こんなところまで格別の用もないのに、稀まれには山人が出向いてきて人を見ていたのである。神隠しの風説などの起りやすかったゆえんである。
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