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「さらば、聞いて戴きますかな。それがしが望みというは、せっかく人として生れ、人の生涯の終りにも近づきおれば、この期ごにあたって、人たるの道を踏み外はずしたくない、という一義いちぎに極まりまする。わが毛利家といえども、一天の下もと、蒼生そうせいの一藩、あなた方の御盟主たる右府様にも、禁門へたいし奉る臣情においては、優まさるとも劣るものにはございませぬ。不肖ふしょう宗治は、その毛利家に属し、碌々ろくろく為なすなき身を、多年七千石の高禄こうろくをたまわり、一族みな恩養にあずかって、今日この変にあたり、国境の守りを命ぜられたこと、ひとえに主家の御信任によるところと、この日頃、生きがいありと、朝夕たのしく暮しておるところでござる。――さるをいま、小利に眼をくれて、羽柴どののお扱いをうけ、右府様の麾下きかに参って、二ヵ国の領主に坐ろうとも、所詮しょせん所詮、近頃のような心楽しき日が送れようとは思われぬ。ましてや、信義に背そむき、主家を売り、何のかんばせあって、宗治、天下の士民に面おもてを向けられましょうか。……小さくは、それがしの家庭においても、妻にも子にも、甥おいにも姪めいにも、左様なことは、人の皮をかぶった者のすることと、日頃より教育もしておりますれば、自身で自身の家風をやぶる儀にも相成りまする。はははは、そんなわけですから、折角の御好誼ごこうぎとはぞんずるが、おはなしの儀は、なかったものと、お忘れくださるように羽柴殿へも、よしなにお伝えたまわりたい。篤くお礼は申しあげる」
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