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彼は今艦橋の右端に達して、双眼鏡をあげつ、艦の四方を望みしが、見る所なきもののごとく、右手めてをおろして、左手ゆんでに欄干を握りて立ちぬ。前部砲台の方かたより士官二人ふたり、低声こごえに相語りつつ艦橋の下を過ぎしが、また陰の暗きに消えぬ。甲板の上寂せきとして、風冷ややかに、月はいよいよ冴さえつ。艦首にうごめく番兵の影を見越して、海を望めば、ただ左舷さげんに淡き島山と、見えみ見えずみ月光のうちを行く先艦秋津洲あきつしまをのみ隈くまにして、一艦のほか月に白しらめる黄海の水あるのみ。またひとしきり煙に和して勢いよく立ち上る火花の行くえを目送みおくれば、大檣たいしょうの上高く星を散らせる秋の夜の空は湛たたえて、月に淡き銀河一道、微茫びぼうとして白く海より海に流れ入る。
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