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猟師は船方ふなかたなどとは違い、各自独立した故郷があって、互いに交通し混同する機会は決して多くない。それが奥州と九州の南端と、いつのころからかは知らぬがこれだけ類似した物語を伝えているのは必ず隠れた原因がなければならぬ。その原因を尋ね求めることは、今からではもうむつかしいであろうか否か。自分の知る限りにおいては、同じ古伝の破片かと思うものが、中部日本では上古以来の北国街道、近江から越前へ越える荒乳あらち山にもあった。『義経記』巻七に義経の一行が、この峠を越えなずんで路の傍に休んだ時、アラチという山の名の由来を、弁慶が説明したことになっている。今の人が聴けば興の覚さめるような話だが、加賀の白山しらやまの山の神女体こうのりゅうぐうの宮、志賀の辛崎からさき明神と御かたらいあって、懐姙すでにその月に近く、同じくはわが国に還って産をなされんとして、明神に扶たすけられてこの嶺を越えたもう折に、にわかに御催おんもよおしあって、山中において神子誕生なされた。荒血をこぼしたもうによって荒血山とはいうとある。『義経記』全篇の筋とは直接の交渉なき插話そうわだから、作者の新案とは考えられぬ。多分はこの書が成長をした足利時代中期に、まだ若干の物知りの間に、記憶せられていた口碑かと思う。しかも猟人かりうどの神を援助した話は、ここではこれと結びついていた痕跡こんせきがない。二国に分れ住む陰陽の神が、境の山の嶺に行き逢いたもうということは、大和と伊勢との間でも、信濃と越後の境でも、今なお土地の民はこれを語り伝えている。それと各地の道祖乢さえのたわの驚くべく粗野なる由来記とは、もちろんいずれが本もと、何れが末とはきめにくいが、脈絡は確かにあったので、従って深山の誕生というがごとき荒唐なる言い伝えも、成立ちうる余地は十分にあった。ただ記録以前にあっては話し手の空想がわずかずつ働いて、始終輪廓りんかくが固定しなかったというのみである。
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