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スキーで近頃有名になった信越の境の山にも、半分ほど共通の話があって、『北越雑記ほくえつざっき』巻十九に出ている。断って置くがこれら二つの書物は共に写本であって流布も少なく、一方の筆者は他の一方の著述の存在をすらも知らなかったのである。それを自分たちが始めて引き比べて見る処に、学問上の価値が存するのである。「妙高山・焼山・黒姫山くろひめやま皆高嶺にて、信州の飯綱いづな・戸隠とがくし、越中の立山まで、万山重なりて其境幽凄ゆうせいなり。高田の藩中数十軒の薪まきは、皆この山中より伐出す。凡およそ奉行ぶぎょうより木挽こびき・杣そまの輩やからに至るまで、相誓ひて山小屋に居る間、如何いかなる怪事ありても人に語ること無し。一年升山某、役に当りて数日山小屋に在ありしが、夜は人々打寄りて絶えず炉に火を焚きてあたる。然るに山男と云ふもの、折ふし来ては火にあたり一時ばかりにして去る。其形人に異なること無く、赤髪裸身灰黒色にして、長たけは六尺あまり、腰に草木の葉を纏まとふ。更に物言ふこと無けれども、声を出すに牛のいばふ如く聞ゆ。人の言語はよく聞分くる也。相馴あいなれて知人の如し。一夕升山氏之に向ひて、汝木葉を着るは恥ることを知るなり。火にあたるは寒さを畏おそるゝなり。然らば何ぞ獣の皮を取りて身に纏はざるやと言ひしに、つく/″\と之を聞きて去れり。翌夜は忽ち羚羊かもしか二疋ひきを両の手に下げて来り、升山の前に置く。其意を解し、短刀もて皮を剥はぎて与ふれば、山男は頻しきりに口を開き打笑ひ、悦よろこびて帰りぬ。すでにして又来たるを見れば、さきの皮一枚は、藤を以て繋つなぎ合せて背に負ひ、他の一枚は腰に巻き付けたり。されど生皮なまかわを其のまゝ着たる故、乾くにつれて縮みより硬こわばりたり。皆々打笑ひ、熊の皮を取り、十文字にさす竹入れ、小屋の軒に下げて見せ、且つ山刀一梃いっちょうを与へて帰らしむ。其後数日来ずと謂へり」(以上)。これなどは秘密を誓約した人々の抜け荷だから、若干の懸値かけねがあっても吟味をすることが困難である。
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