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なお楽曲の形にも「いき」が一定の条件を備えて現われているように思う。顕著に高い音をもって突如として始まって、下向的進行によって次第に低い音に推移するような楽節が、幾つか繰返された場合は多く「いき」である。例えば歌沢の「新紫にいむらさき」のうちの「紫のゆかりに」のところはそういう形をもっている。すなわち、「ムラサキ。ノ。ユカリ。ニ」と四節に分かれて、各節は急突に高い音から始まり、下向的進行をしている。また「音にほだされし縁の糸」のところも同様に「ネニホ。ダ。サレ。シ。エンノ。イト」と六節に分けて見られる。また例えば、清元の「十六夜清心いざよいせいしん」のうちの「梅見帰りの船の唄、忍ぶなら忍ぶなら、闇の夜は置かしやんせ」のところも同様の形をもっている。すなわち、「ウメミ。ガヘリノ。フネノウタ。シノブナラ。シノブナラ。ヤミノ。ヨハオカシヤンセ」と七節に分けて考えることができる。そうしてこの場合に、かような楽曲が「いき」の表現であり得る可能性は、一方に各節の起首の高音が先行の低音に対して顕著な色っぽい二元性を示していることと、他方に各節とも下向的進行によって漸消状態のさびしさをもっていることとに懸かかっている。また起首の示す二元性と、全節の下向的進行との関係は、あたかも「いき」な模様における、縞柄しまがらと、くすんだ色彩との関係のごときものである。
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