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今となってはわずかに残る民間下層のいわゆる迷信によって、切れ切れの事実の中から昔の実情を尋ねて見るのほかはないのであります。一つの例をあげてみますれば、山中には往々魔所と名づくる場処があります。京都近くにもいくつかありました。入って行くといろいろの奇怪があるように伝えられ、従って天狗の住家すみかか、集会所のごとく人が考えました。その奇怪というのは何かというと、第一には天狗礫てんぐつぶて、どこからともなく石が飛んでくる。ただし通例は中あたって人を傷きずつけることがない。第二には天狗倒し、非常な大木をゴッシンゴッシンと挽ひき斫きる音が聴え、ほどなくえらい響を立てて地に倒れる。しかも後にその方角に行って見ても、一本も新たに伐きった株などはなく、もちろん倒れた木などもない。第三には天狗笑い、人数ならば十人十五人が一度に大笑いをする声が、不意に閑寂の林の中から聴える。害意はなくとも人の胆きもを寒くする力は、かえって前二者よりも強かった。その他にやや遠くから実験したものには笛ふえ太鼓たいこの囃はやしの音があり、また喬木きょうぼくの梢こずえの燈の影などもあって、じつはその作者を天狗とする根拠は確実でないのですが、天狗でなければ誰がするかという年来の速断と、天狗ならばしかねないという遺伝的類推法をもって、別に有力なる反対者もなしに、のちにはこうして名称にさえなったのであります。
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