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ぼんやりと立って居る私の瞳は、左側の壁間に掛けられた油絵の肖像畫の上に落ちて、うか/\と其の額がくの前まで歩み寄り、丁度ランプの影で薄暗くなって居る西洋の乙女の半身像を見上げた。厚い金の額縁で、長方形に劃しきられた畫面の中に、重い暗い茶褐色の空気が漂うて、纔わずかに胸をお納戸色の衣に蔽い、裸体の儘の肩と腕とに金や珠玉の鐶わを飾った下げ髪の女が、夢みるように黒眼がちの瞳をぱッちりと開いて前方を視つめて居る。暗い中にもくッきりと鮮やかに浮き出て居る純白の肌の色、気高い鼻筋から唇、頤、両頬へかけて見事に神々しく整った、端厳な輪廓、―――これがお伽噺に出て来る天使と云うのであろうかと思いながら、私は暫くうっとりと見上げて居たが、ふと額から三尺ばかり下の壁に沿うた圓卓の上に、蛇の置物のあるのに気が付いて其の方へ眼を転じた。此れは又何で拵えたものか、二た廻り程とぐろを巻いて蕨わらびのように頭を擡げた姿勢と云い、ぬら/\した青大将の鱗の色と云い、如何にも真に迫った出来栄えである。見れば見る程つく/″\感心して今にも動き出しそうな気がして来たが、突然私は「おや」と思って二三歩うしろへ退いた儘眼を見張った。気のせいか、どうやら蛇は本当に動いて居るようである。爬虫動物の常として極めて緩慢に、注意しなければ殆ど判らないくらい悠長な態度で、確かに首を前後左右へ蠢うごめかしている。私は総身そうしんへ水をかけられたように寒くなり、真っ蒼な顔をして死んだように立ち竦んでしまった。すると緞子の帷の皺の間から、油絵に畫いてある通りの乙女の顔が、又一つヌッと現れた。
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