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この上は結婚なり。猿猴えんこうのよく水に下るはつなげる手あるがため、人の立身するはよき縁あるがためと、早くも知れる彼は、戸籍吏ならねども、某男爵は某侯爵の婿、某学士兼高等官は某伯の婿、某富豪は某伯の子息の養父にて、某侯の子息の妻さいも某富豪の女むすめと暗に指を折りつつ、早くもそこここと配れる眼まなこは片岡かたおか陸軍中将の家に注ぎぬ。片岡中将としいえば、当時予備にこそおれ、驍名ぎょうめい天下に隠れなく、畏かしこきあたりの御覚おんおぼえもいとめでたく、度量濶大かつだいにして、誠に国家の干城と言いつべき将軍なり。千々岩は早くこの将軍の隠然として天下に重き勢力を見ぬきたれば、いささかの便たよりを求めて次第に近寄り、如才なく奥にも取り入りつ。目は直ちに第一の令嬢浪子をにらみぬ。一には父中将の愛おのずからもっとも深く浪子の上に注ぐをいち早く看みて取りしゆえ、二には今の奥様はおのずから浪子を疎うとみてどこにもあれ縁あらば早く片づけたき様子を見たるため、三にはまた浪子のつつしみ深く気高けだかきを好ましと思う念もまじりて、すなわちその人を目がけしなり。かくて様子を見るに中将はいわゆる喜怒容易に色にあらわれぬ太腹の人なれば、何と思わるるかはちと測り難けれど、奥様の気には確かに入りたり。二番目の令嬢の名はお駒こまとて少し跳はねたる三五の少女おとめはことにわれと仲よしなり。その下には今の奥様の腹にて、二人ふたりの子供あれど、こは問題のほかとしてここに老女の幾いくとて先の奥様の時より勤め、今の奥様の輿入こしいれ後奥台所の大更迭を行われし時も中将の声がかりにて一人ひとり居残りし女、これが終始浪子のそばにつきてわれに好意の乏しきが邪魔なれど、なあに、本人の浪子さえ攻め落とさばと、千々岩はやがて一年ばかり機会をうかがいしが、今は待ちあぐみてある日宴会帰りの酔えいまぎれ、大胆にも一通の艶書えんしょ二重ふたえ封ふうにして表書きを女文字もじに、ことさらに郵便をかりて浪子に送りつ。
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