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布引氏は賊の申出もうしいでに従って、警察に届出とどけいでるのは見合せることにした。こういう場合に、賊の申出にさからって、飛んでもない結果をひき起した例を、屡々しばしば耳にしていたからだ。賊は五万円が目的なのだ。それさえ与えたら危害を加えることもなかろう。それに五万円は大金ではあるけれど、布引氏の資産に比べては物の数でもない。しかも何物にも換え難い一粒種の愛嬢の命が買えるのだ。「こんな廉やすい取引はない」と、太っ腹の布引氏は忽ち思案を定めたのである。
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