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藩が脱籍者の輩出せんことを恐るるに至ったのは、二、三の忌むべき実例があったからである。その首しゅにおるものは、彼かの勘定奉行を罷やめて米穀商となった平川半治である。当時此かくの如く財利のために士籍を遁のがれようとする気風があったことは、渋江氏もまた親しくこれを験することを得た。或人は五百いおに説いて、東京両国の中村楼を買わせようとした。今千両の金を投じて買って置いたなら、他日鉅万きょまんの富とみを致すことが出来ようといったのである。或人は東京神田須田町すだちょうの某売薬株を買わせようとした。この株は今廉価を以て贖あがなうことが出来て、即日から月収三百両乃至ないし五百両の利があるといったのである。五百のこれに耳を仮かさなかったことは固もとよりである。
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